京都芸術大学 アートプロデュース学科

岡田 絵梨さん
2011年度卒
私立認定こども園事務

あなたにとってアートプロデュースとは何ですか?

2024.7.1 Mon.

アートを通して、生き方を練習すること

質問1. どんな仕事をしていますか。具体的に教えてください。

総務・経理・人事労務などです。

認定こども園の仕事というと、保育士さんのイメージがあると思いますが、私の仕事はそれ以外の部分です。
人事労務としては、こども園で働く人たちの雇用に関わること(求人を出したり、入職・退職の手続、社会保険の手続など)や、給与や税金の計算…といった仕事です。
経理の部分では、園の収入を得る(ご家庭から保育料をいただいたり、自治体の補助金を申請するなど)ことと、支出(教育に使うもの、給食食材、人件費などの支払い)を管理し、記録し、監査法人や自治体の監査(お金の流れに不正がないかどうかの審査)を受けます。

その他にも、園で行うイベントの集客でポスターや受付フォームを作ったり、WEBサイトの更新、園内のアート作品の展示替えもします。

最後の以外はアートプロデュースでの学びからは少し想像しにくい分野かもしれませんね。
でも私はアートプロデュースを学ぶ中で展覧会を企画運営していたとき、表に立つより事務仕事が好きだな〜と感じていたので、この仕事を選びました。

質問2. アートプロデュースを学ぼうと思ったきっかけは?

親族や家族のほとんどが、芸術大学を卒業して、芸術やデザインにまつわる仕事をしている環境で育ったため、それ以外の道が想像できなかったのが大きいです。
最初はガラス工芸科のある大学を検討していました。が、デッサンを始めたあたりで「私、絵を描いたりモノづくりをしたいわけではないかも…」と思い、アートプロデュースのような角度から芸術を学べることを知って、進路を決めました。

質問3. 在学中思い出に残っているエピソードを教えてください。

考古学のテストでヤマを張って、古代エジプトの神々の名前を完璧に覚えて試験に臨んだところ神は1人も登場せず、「人間とは何か、あなたの考えを述べなさい」、それただ一問のみの出題だった時は絶望しました。

それはともかく、やっぱりACOP(対話型鑑賞)!今の学生さんは知らないと先日聞いてびっくりしました。
作品を見て「どう感じたか、その根拠はなにか」を話し、他の人はどう感じたかを聞き、それを聞いてさらに自分はどう思うか考えて話し…ということを突き詰め、繰り返す毎日でした。
毎日夜遅くまで皆でその練習。帰りのバスの中で当時好きだった くるりを聴きながら「この曲聞いてなんかカッコイイなとか落ち着くなとかそれだけじゃダメなわけ〜?!?!作品に触れるたびに“なんでそう感じるか”考えながら聴いてたら頭爆発するよ〜〜!!」と1人考えながら泣きました。自分を追い詰めすぎていたんだと思います。笑

なんだか皆それぞれに、展覧会企画運営とか調査とか研究で忙しくしていた印象です。
他の大学に行った友だちからは、合コン!飲み会!一気飲みコール!な大騒ぎキャンパスライフの話を聞いていましたが、私は治安の良い充実した楽しい大学生活でした(笑)。

質問4. あなたにとってアートプロデュースとは何ですか?

アートを通して、生き方を練習すること。まぁやらなくてもいいけど、練習しといた方が世界は上手いこといくよね、というモノでしょうか。ゆるい言い方ですが、それくらい身近という感覚です。

大学の理念に藝術立国という言葉があります。芸術によって平和を希求するというものです。
学生の頃は「社会にアートは必要か?必要なはずだ!たぶん!だから国はもっと芸術の予算を増やして…」みたいな、根拠薄いのに眉は吊り上がったような考えでいましたが、やっぱり必要さが腑に落ちていないから、大学の理念を「ちょっと大げさかも」と感じてもいました。

それって多分、若い頃は「アート作品を飾ること」そのものに価値があると思っている部分がまだあったんだと思います。「飾ったらそれでカッコいいから勝ち」みたいな。

アートプロデュースというのは、作品や社会をよく観察して、頭の中を整理して言語化し、あなたの考え/私の考え を交差させ、誰もが見られる形にするものだと私は考えます。論文だったり、展覧会だったり、イベント企画だったり様々な形で。

社会に出て、家庭ができて、とライフステージが変わってくると、この「あなた」は作品や作品を介した人ではなく、仕事相手や同僚や上司部下、パートナー、子どもなどに替わり、成果物も違ってきますが、やってることは変わらないなと感じます。

私は今こんな気持ちです。
あなたはどんな気持ちかな?
それってこういうこと?
じゃあ、こんなのはどう?

この対話・アプローチをアートを媒介にして様々な角度から学ぶことがアートプロデュースで、人生はこの学びの応用なんじゃないかなと思います。

いま、30代も半ばになり3人の子どもを育てていますが、本当に怒涛です。毎日常に誰かがはしゃぎ、泣き、怒り、感情の滝行を浴びせられているようです。
この怒涛の3つの滝を受け止め、整備し、穏やかな流れにするには、よく観察することと、上記のような対話が重要です(たまに対話を放棄して、えぇかげんにせぇ!!!と叫びますが)。

いま私はアートから離れた仕事や育児の世界にいますが、「あ〜アートを学ぶって、なんにでも応用が効く、生き方の練習だったんだ。やっぱりあった方が良かったんだわ、うんうん」という気持ちでいます。

世界中みんながお互いの想いをよく観察して耳を傾ける練習をアートを通してやれば、「藝術立国」も、ぜんぜん大げさじゃないよな、と今はとても納得しています。

質問5. それがどのように今の仕事に活かされていますか?

卒業後、美術館や編集などアートのお仕事に就く場合はもちろんアートプロデュースの学びが生きますが、私のように割と離れた界隈にいても、アートプロデュースで訓練された観察と対話とリサーチ力はしっかり生きています。

私は今こんな気持ちです。
あなたはどんな気持ちかな?
それってこういうこと?
じゃあ、こんなのはどう?

繰り返しになりますが、仕事って本当に全部、観察と対話とリサーチです。

例えば、業務改善のシーン。簡単に言うと「この仕事めちゃくちゃめんどくさいな…もっと簡単にできたらサッサと帰れるのに…」という時です。

面倒な原因はどこだと感じているんだろう?同僚の話も聞いてみよう。なるほどそういう考え方があるか!じゃあこんな解決方法はどうだろう…とか。

他にも、このお客様を満足させたい!という時。
なにに困ってるんだろう?こんなのはどうですか?違うっぽい?本当はこうなりたいってこと?じゃあこの商品はどうでしょう?…とか。

観察と対話とリサーチの訓練を積んでいないと、問題解決のスピードってやっぱり変わってくると思います。

実は今アートプロデュースコースの後輩ちゃんと一緒に働いていますが、私や園が困っていた問題を、ずいぶんたくさん解決してくれました。アートプロデュースコースですごく学んできたんだなと感じるお仕事ぶりです。
私自身の仕事ぶりを言うのはおこがましいので一旦棚に上げさせていただいて(笑)、同じアートプロデュースコース出身の方をこうして客観的に見ても、アートプロデュースを学んできた人ってすごく仕事できるんだな!と、そう感じます。

  • Interviewer京都芸術大学 アートプロデュース学科