京都芸術大学 アートプロデュース学科

2016年度 奨励賞&同窓会特別賞

〔STRIVE AGAINST FATE ──宿命に抵抗する〕

穐吉 七奈さん

📝要旨📝

BALMUNG 2016 Autumn/Winter Collection

2016年4月29日~5月8日にかけて行った展覧会「STRIVE AGAINST FATE -宿命に抵抗する」は、<現代ファッションと性>をテーマにアパレルブランド「BALMUNG(バルムング)」の作品を展示しました。

BALMUNGは、2006年にデザイナーのHACHI(城下龍一)によって創立された「東京・都市・灰色」をテーマとしたアパレルブランドです。ブランドの生み出す衣服作品は、大胆なまでのビッグシルエットに、機能性より装飾性を優先した、幾重もの布のあしらいが生み出す重厚感が特徴的です。着用すると肉体の凹凸が覆い隠され、布と皮膚の距離が遠く触れ合わない感覚は、衣服の中に内在する自己を朧げにさせます。

展覧会「STRIVE AGAINST FATE -宿命に抵抗する」を用いた本論考では、現代人にとっての<衣服と性のつながり>を紐解き、<衣服の可能性>を蘇らせることを目的としました。タイトルで“抵抗する”とあげた<宿命>とは<性>のことを指し示し、この<性>に対し衣服がどのような可能性をもって抗ってゆけるかを、装いの文化とBALMUNGの衣服を用いて検証します。

そのためにまず性の根源に始まり、現代に至るまでに発展した“性の多様性”に迫ります。しかし、その多様性は人間の生まれ持った「生物学的性」によって成り立っているという<不可避の現実=宿命>を確認しました。さらに、衣服によって語られる自己の内面、異性装や仮装によってもたらされる性の意識の変化についても言及しました。

現代ファッションを代表する衣服として用いたBALMUNGについては「ブランディング」、「着用する人物」、「展覧会で行ったアンケート調査の結果」の3点から紐解きます。そこでは、ブランドの衣服が社会にもたらす影響や、愛好者の心理について考察した結果、ブランドの衣服を通して自身の性を見つめ、自身の弱さに向き合う人々の試みが見られました。

そして、宿命的な性と衣服がもたらす社会への影響を追及したのちに、人間が抱える「コンプレックス」を主題に、衣服の持つ可能性を再考します。そこでは、主に日本で汎用される“劣等感”の意のコンプレックスに迫り、性に対して表れるコンプレックスの難解さを追求しました。さらに、衣服の可能性として「ジェンダーレス」という、一部のサブカルチャーで流行する概念を分析し、衣服における新たなる性の在り方を明らかにしました。

以上をもって本論考は「衣服が秘めている可能性は、己の秘めている可能性である」と結論付け、人々が衣服に対し思考するよう促し、自身にとってより有益な衣服を選択することを啓発します。