京都芸術大学 アートプロデュース学科

  • イベント

10/29 奥村雄樹さんトークイベント

2020.10.29 Thu.

2020年最後に紹介するブログは、イベントレポートです。

今年は、これまで実施してきた”対面形式”でのイベント開催ができず、”オンラインでのイベント開催”や、コロナウイルス感染防止対策に取り組みながら、”新しい形でのイベント企画・実施”に挑戦する1年になりました。

アートプロデュース学科のプロジェクト型の授業「ARTZONE」の授業内で、イベントの企画・運営を担当した学生から、報告が届きましたので、ご紹介します。

「ARTZONE LECTURE SERIES vol.2 コンセプチュアルの、パーソナルの消息の捜索へ」と題し、
アーティストの奥村雄樹さんをゲストにお迎えし、開催しました。
林田先生・山城先生指導のもと、学生たちがイベントの企画・運営を行い、前期中はオンラインイベントを開催、今回は「オンラインとオフライン」を一つの場で融合させる実験に挑戦しました。

本イベントは学内関係者のみに開かれたイベントになりましたが、このレポートでイベントの雰囲気を皆様にお伝えできればと思います。


10月29日、アートプロデュース学科がおこなっている社会実装科目の一つ、通称ARTZONEの授業でトークイベント「ARTZONE LECTURE SERIES vol.2 コンセプチュアルの、パーソナルの消息の捜索へ」を開催しました。

登壇して頂いたのはアーティストの奥村雄樹さん。作品制作を行いながら、近年はコンセプチュアル・アートについて調査を行っています。今回のトークでは、コンセプチュアル・アートを最初に提唱したソル・ルウィット(1928-2007)の考えを軸にして、コンセプチュアル・アートの実例を交えながら話をしていただきました。

コンセプチュアル・アートにおいてアーティストは「制作者」というよりはむしろアイデアの「着想者」です。絵画作品のようにアーティストが作品を手がけた痕跡は残りません。コンセプチュアル・アートでは、アーティストの気配を限りなく切り詰めていくことが求められてきたのに対して、奥村さんは、むしろアーティストの気配が浮かび上がってくることこそがコンセプチュアル・アートの核なのではないかと語ります。奥村さんは、そのような構想にもとづいて制作を行い、ときに誰かのストーリーや作品を繋ぎ合わせながら自身や他者のパーソナリティを変質させる試みを行っています。その活動については、奥村さんのウェブ・サイト(リンク:http://yukiokumura.com/)を参照してください。

奥村さんは現在ブリュッセルに住まわれています。レクチャーの内容や段取りについては、奥村さんとzoomでミーティングを行ったり、メールを用いたりして、全てオンラインで決めていきました。

企画会議、オンライン・ミーティングの様子

コロナの影響で一気にオンライン化が進んだ新しい環境のなかで、ARTZONEの授業ではオンラインでの取り組みの新たな可能性を探っています。今回は、新しいトークイベントのかたちとして、オンラインとオフラインをひとつの場で融合させることを試みました。

奥村さんの活動のなかにみられる「パーソナリティを拡張する」という試みを会場設営にも反映させようと、スクリーンやディスプレイを複数用意し、奥村さんが同時に何人も話しているかのような状況を作りました。2012年に東京国立近代美術館で開催された「14の夕べ」というイベントで奥村さんが行ったパフォーマンス《河原温の純粋意識あるいは多世界(と)解釈》に着想を得て、トークイベントの会場を構成しました。

さらに、複数のスクリーンにあわせて、それぞれに講義室、居間、展覧会場、グループワークの場というように雰囲気を変えました。そうすることで、観客が座る場所によって異なるコミュニケーションを生じさせようと試みました。

イベント当日、会場設営の様子

イベント当日、会場の様子

当日は感染対策の一環として学内の方のみを対象に開催することとなりましたが、事前に用意していた席数では足りなくなるほどたくさんの方にお越しいただきました。お越し下さった皆様、ありがとうございました!

アーティストであると同時に翻訳家としても活動している奥村さんは、コンセプチュアル・アートと翻訳は似た性質を持っていると話します。他者の言葉を翻訳していくなかで、「ウルトラパーソナル」な、すなわち、他者の言葉を話すことで逆に翻訳者自身の個人性が切り詰められた形で発揮されていくという現象と、「トランスパーソナル」な、すなわち他者と自身が交わっていくという現象がおこります。そのような、パーソナリティを変質させるという特徴がコンセプチュアル・アート自体にもあるのではないか。

このような視点から、コンセプチュアル・アートの歴史を辿りつつ、奥村さんが構想している次回作についてお話して頂きました。

レクチャーが終わったあとは、Googleフォームを使って参加者から質問を受け付け、奥村さんに届けました。各自質問を送る方もいれば周りの人たちと話して問いを膨らませながら質問を送る人もいて、会場構成が効果を発揮した場面となりました。

たっぷり2時間のレクチャーとなりましたが、皆さん最後までしっかり耳を傾けてくださいました。コンセプチュアル・アートをめぐる濃密なお話を聞くことができ、受講者の方からも「人生が変わった!」「言葉ひとつひとつの意味や使い方に敏感になった」などの感想を頂きました。

振り返ってみると、実験的な試みをたくさん盛り込んだ企画になりました。改善点は勿論のこと、得られた発見がたくさんあります。ふりかえりを経て、現在次の企画にむけてミーティングを重ねています。人と人との距離感が大きく変わったことで、様々な縛りが増えたように感じるこの頃ですが、この状況をいかに面白がるか、面白さを見出していくかという視点から、また新しい企画を作っていきたいと思います!

  • Text山本 小蒔さん/アートプロデュース学科2回生