京都芸術大学 アートプロデュース学科

2022年度 優秀賞

いきるデザイン

インタウンデザイナーから考えるこれからの地域での暮らしと関わりについての考察

松月杏さん
山城ゼミ

📝要旨📝

 福井県鯖江市を拠点に活動をする「TSUGI(合同会社ツギ)」というデザイン会社がある。TSUGIは2013年に移住者たちのサークル活動として結成され、その後2015年に法人化された。現在は社員12名で構成され、その大半が移住者である。この会社の代表を務める新山直広(1985-)は、2009年に福井市の都市部にあるショップで越前漆器がワゴンセールで叩き売りにされ、それが全く売れていない状況を目の当たりにした。そこで、「職人さんは、技術はあっても売り方や伝え方がわからない人が多いのではないか」と感じ、「創造的な産地をつくる」ということをビジョンに掲げ「つくる」「支える」「売る」という三つの事業を行うTSUGIを設立した。
 また新山は、特定の地域に根付き活動を行なっている自分たちのことを「インタウンデザイナー」と呼んでいる。そして、この「インタウンデザイナー」について新山は「その土地の地域資源を生かした最適な事業を行うことで、地域のあるべき姿に導く」とその名に意味を込めていると語っていた。
 本論文では、インタウンデザイナーが用いる「インタウンデザイン」というものについて、どのような役割を備えているのかを明らかにする。またそれは地域の暮らしの中でそこに「住む人」に与える影響について論ずることを終着点とする。
 この問いに取り組むため、以下のような手続きを取る。第一章では、インタウンデザイナーの語源ともなった「インハウスデザイナー」についてまずはその正体を明らかにする。第二章では、インハウスデザイナーの持つ特性を踏まえ、それを社内というよりもっと拡大した「地域内」とした場合、そこから見える「地域」のあり方を「社内」と「地域内」の共通性と違いから考える。そのためには、山下祐介(1969–)の『地域学入門』(ちくま新書、2021年)を読み取り、「地域」の持つ意味について改めて研究をし、そこで「地域」というものは単なる区切られた土地の範囲を表すものではない一面を提示することを目指す。第三章では、これまで述べてきたことをもとに本論文の研究対象でもある「インタウンデザイナー」について「インタウン」の特性、そしてなぜ「地域内」に「インタウンデザイン」という視点が必要なのかを実例をもとに明らかにする。第四章では、「インタウンデザイン」を地域へ用いることの応用、また「インタウンデザイン」の内に織り込まれているデザインの可能性について明らかにする。これまでの議論を踏まえ、「インタウンデザイン」とは、「地域」という住む人のアイデンティティや生涯にも関わる「自分を生かす仕組み」の中で、同じ地域に住む者たち同士が互助し、「自分たちの生きる居場所」を創り出すための役割があることがわかった。また「地域」とは、みる人側によって創り出される産物であり、インタウンデザイナーは、その地域というものの見え方自体も創り出している存在であるということや、それを通じて「地域」というものを閉ざさない、持続可能なものへと新たに価値を見出し続けている者たちでもあるとし、本稿の結論とした。